第1話『流血無き苦闘』・4
再録。
「…という事は、この街を離れると?」

意外そうな顔で問うゾイドに、元冒険者・今は丁稚の男が苦笑しつつ頷く。

「ここでの仕事も、日雇いに近かったが…
川越えの商人が、数ヶ月の人夫を探していたし、これを機に、外へ行くぜ」

眉を顰めるゾイド、再び苦笑いする男。

「ここ最近、雇用は厳しいかったからな…
小国家群での紛争による難民、渡し舟業者の廃業、それに加えて迷惑な環境保護団体の暴動…」

額に右の掌を当て、勘弁してくれ、と呟く。

「まあ、そう言う訳で…明日には発つんで、ヤマノの旦那(※1)には宜しくな」

「ああ、判ったよ…それじゃ…」

卵や砂糖の入った袋を取り、男に別れを告げようとすると…

ヒュッ

何かが横…いや、腰の辺りを通り抜け…気付いた時には遅かった。
手からは袋が消えており、袋を攫った相手は、すぐに市の人ごみに紛れてしまう。

…やられた
これで、食事一食分の損失が出たのだ。

「言うのが遅れたが…最近、
この辺でガキの引ったくりが多いらしいからな、これからは気をつけろよ?」

他人事の気軽さで言う、男の声が、酷く遠くに聞こえた。