再録。
第1話『流血無き苦闘』・3
気さくに声をかけるゾイドに相手の男…二十代前半の剃り込みの男…は
一瞬、鬱陶しそうな目を向けるが、すぐに営業用の笑顔を向ける。
作っているのが明らかな、ぎこちない笑顔だ。

「ああ…いらっしゃい。ほれ…見ての通りだぜ?」

差し出されたのは右腕、鍛えられた丸太の様な二の腕が見える。
しかし、それが肉によって構成されていたのは肘まで、
その先はカチャカチャと奇妙な音を立てる、金属製の義手だ。

男は一月程前に廃業した冒険者であり、欠損した腕は「仕事」によるものらしい。
替わりの腕を求め、とある技師(※1)に義手を作らせていたところに、ゾイドは居合わせたのだ。

「先生には宜しく言って置いてくれよな?
代金は今月末には持っていくってよ」

男の言に頷きながら、苦笑する。
これではメッセンジャーではないか、と。

「それはともかく、今の仕事の話しだ
卵が安いとか?」

話題を本来の目的に移す。
男の今の仕事は、丁稚(※2)なのだ。