再録その2
第1話『流血無き苦闘』・2
街が目覚めた

そんな風に錯覚するほど、時計塔の音は力強く反響する。
響きに驚いたのか、郊外の森からは野鳥の羽音が聞こえてくる。

そして、ゾイドの意識もはっきりとしてくる。
試しに利き手を開いては閉じ、指の具合を確かめる。
…悪くは無い。

自らの調子に満足し、止まっていた歩を再び進める。

辿り着いたのは街の西部に位置する、川の前。
そこに小規模の市が立っている。
西がわへの旅商人達が荷物を処分するため、開かれる市である。

早く来すぎたと思っていたゾイドであったが、
市の方は既に臨戦態勢を整えており、日雇いを含む商人達が忙しく動いている。
ゾイドは立ち並ぶ露店の列に目を走らせ、その中に見知った顔を見出す。

偶然ではない。
旅の恥は掻き捨てとばかりに粗悪品を売りつける者もいる市に、目利きとは言えないゾイドが来たのも、知人が居たからだ。

「よ、『腕』の調子はどうだい?」